本の紹介

『ビジュアル・シンカーの脳~「絵」で考える人々の世界~』テンプル・グランディン著(NHK出版)を読んで

自閉スペクトラム症の当事者で、コロラド州立大学動物科学教授である著者による最新刊。自閉症の子ども達に関わる者として、彼女の著作は全て読んできましたが、この本も大変興味深い内容でした。

テレビ映画『テンプル・グランディン~自閉症とともに』の冒頭でも述べているとおり、彼女は「絵で考える」といいます。4歳まで言葉を話さなかった彼女は、幼い頃、まわりの世界を言葉で理解することが出来なかったそうですが、画像で理解していたのだそうです。現在でも、視覚的なイメージが次から次へと思い浮かび、グーグルの検索画像をスクロールしたり、インスタグラムのショートムービーを見たりしているように、画像で考えているといいます。こうした思考タイプを、視覚思考というようです。私自身を振り返ってみると、間違いなく言葉を使って考えているので、思考様式が違うのだと思います。ちなみに、私のような思考タイプを、言語思考というらしいです。

また、視覚思考には、絵で考える「物体視覚思考」と、パターンや抽象的な概念で考える「空間視覚思考」の二つのグループがあるというのです。著者は前者のタイプで、このタイプの人々は、画家やグラフィック・デザイナー、建築家、機械工学士、設計士の中に多いといいます。後者のタイプの人々は、音楽や数学が得意で、統計学者や電気技師、物理学者、コンピューター・プログラマーの中に多いそうです。この二つのタイプを見極める比喩として、「物体視覚思考者はコンピューターを組み立て、空間視覚思考者はコンピューター・プログラムを作成する」と述べています。

「考える」という脳内作業の仕方に実は様々なタイプがあり、視覚的なイメージがほとんど描けない「アファンタジア」から、視覚的なイメージが過剰な「ハイパーファンタジア」まで、スペクトラム状に分布しているというのが彼女の見解でした。この「ハイパーファンタジア」のタイプは、考えていることやフラッシュバックを現実の出来事と思ってしまうほど視覚的なイメージが鮮明なのだそうです。フラッシュバックで苦しむ自閉スペクトラム症の多くの人々は、この「ハイパーファンタジア」のタイプなんだと納得しました。

こうした思考タイプも含めて、子ども達は様々な才能を持っています。どんな子ども達も持って生まれた才能を発見し開花させることが大切です。そのためには、様々なものに触れる機会が必要だと彼女はいいます。

結論めいてしまいますが、①体験する機会を与えなければ、子どもの才能は伸びない。②子どもの才能が伸びなければ、国に必要な健全で多様性に富んだ労働力が減少する。という彼女の意見に、思わずスタンディング・オーベーションをしてしまいました。学校の先生方は勿論、保護者の皆様に是非読んでほしい1冊です。

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