

原著の『CORDUROY』は1968年にアメリカで出版された絵本です。著者はドン・フリーマン。その絵本を翻訳したのが『くまのコールテンくん』で、日本で出版されたのは1975年です。訳者は松岡享子氏。
主人公は勿論、くまのぬいぐるみのCORDUROY(くまのコールテンくん)です。身につけているオーバーオールがコーデュロイで出来ているから、そんな名前が付けられたと思われます。彼(原著ではHeと表現されていますが、日本語版では、「彼」とは訳されていません。)は、大きなデパートのおもちゃ売り場で売られている、くまのぬいぐるみです。ある日、デパートに買い物に来た母とその娘のリサが、CORDUROY(くまのコールテンくん)の前を通りかかると、リサは彼に一目惚れをしてしまいます。しかし母親は、オーバーオールのボタンが一つ取れているそのくまを「He does’nt look new.」(しんぴんじゃないみたい。)と言って、買うことを許してくれませんでした。
そしてその夜、CORDUROY(くまのコールテンくん)は取れてしまったボタンを探しに、デパートの中を探検するという話が続きます。そこでの冒険譚はここでは省略しますが、結局CORDUROY(くまのコールテンくん)は、元のおもちゃ売り場の棚に戻されてしまいます。
次の日の朝、リサは開店と同時にやってきて、母親の了解も得、自分が貯めておいたお金でCORDUROY(くまのコールテンくん)を買っていくのです。
リサは買ったCORDUROY(くまのコールテンくん)を胸に抱いて、一目散に自分の部屋に戻ります。そして、ボタンを縫い付けてあげながら、こう言うのです。「I like you the way you are.but you’ll be comfortable with your sholder strap fastened.」(あたし あなたのこと このままでも すきだけど、でも、ひもが ずりおちてくるのは、きもちわるいでしょ。)
そのままのあなたが大好き。だけど、こうしたほうが、あなたにとって、もっと良くなるはず、という言い方って子育てでも教育でも大切な関わり方だなと、強く思いました。松岡享子氏の訳に文句があるわけではないのですが、その一文、私だったらこう訳します。(わたし、そのままの あなたが だいすき。でも、かたひもが ちゃんと ついていたほうが もっと きもちいいでしょ。)発達障害がある子ども達には特に、一つ一つの言葉が持つイメージが大きく影響してしまいます。否定形より肯定形、「ずりおちてくる」より「ちゃんとついている」、「きもちわるい」より「きもちいい」という言い方の方が、気持ちよく素直に伝わると思うのです。
また、最後の場面を読むと、リサは本当は人間の友達が欲しいと思っているのだけれど、それがかなわないから、CORDUROY(くまのコールテンくん)にその代わりを求めているのかな、と思わせるやり取りで締めくくられています。リサの顔つきや肌の色から、移民としての葛藤や悩みも著者は描いているのかもしれません。松岡享子氏が、リサが言う自分のこと「I」を(あたし)と訳しているのも、そんな状況を考慮しているのかもしれません。くり返し登場する言い回しがとても楽しく、CORDUROY(くまのコールテンくん)やリサの視線や目つきがとても丁寧に描かれていて、本当に素晴らしい絵本です。全ての世代の方にお薦めします。