本の紹介

『発達障害当事者研究~ゆっくりていねいにつながりたい~』綾屋紗月・熊谷晋一郎著(医学書院)を読んで

自閉スペクトラム症当事者の綾屋紗月氏と脳性麻痺当事者で医師の熊谷晋一郎氏による共著。

この本の中で綾屋紗月氏は、自閉スペクトラム症当事者が感じている様々な感覚について具体的に教えてくれています。例えば、「空腹感が分からない」のは、身体内部から発せられる様々な情報と、身体外部からの大量の情報を統合処理出来ないために、「空腹をまとめ上げられない」からだと言います。また、「上司に、昼食をとりに行ってきますと言う」一つの行動にしても、「どんな声色で」「どんなスピードで」「どんな表情で」「どんなタイミングで」「どんな身振りをつけて」等、細かい所作のレベルで数限りない選択肢があり、それを決めるのに時間がかかってしまうのだそうです。同じく自閉スペクトラム症当事者の村上由美氏が、『アスペルガーの館』(講談社)の中で述べていたように、定型発達の人が「オートマ車のように無意識にギヤチェンジできることを、アスペルガーである私は、マニュアル車のように、いちいち意識してギヤチェンジしなければならない」ということなのでしょう。

さらに、自閉スペクトラム症の子ども達がする「こだわり行動」の説明としては、以下のように述べています。様々な試行錯誤の末、偶然上手くいった行動の一連の流れを「安心パターン」として登録するのだそうです。そして、上手くいく安心パターンだから、毎回その通りに行動しようとするというのです。ということは、自閉スペクトラム症の子ども達が苦手なのは、失敗することや、どうなるか分からない未定の未来ということなのでしょうか?そういえば、自閉スペクトラム症の子ども達は、何をプレゼントしてくれるか分からないサンタクロースは嫌いで、自分が希望したプレゼントを必ず届けてくれるサンタクロースが大好きという話を聞いたことがあります。

もう一つ皆さんに知っておいてほしいのは、「感覚飽和」という状態のことです。この感覚飽和とは、刺激を大量に感受してしまい、たくさんの感覚で頭が埋め尽くされてしまう状態のことだそうです。そうなると、その大量の情報を処理することが出来ず、フリーズしたりパニックが引き起こされたりするそうなのです。定型発達の人は、そうした状態を経験したことがないので、なかなか理解するのが難しい状態だと思います。この感覚飽和は、「一つ一つの刺激は小さくても大量」だと起こるし、「一つの刺激でも、ものすごく大き」ければ起こるし、「大きい刺激が大量だと最悪」なことになると言います。自閉スペクトラム症の子ども達が集団を嫌がったり、運動会のスタート合図に使われていたピストルの音を嫌がったり、ランダムで大きな音があふれる音楽室に入るのを拒否したりするのは、この感覚飽和が影響しているのかもしれません。

なるほど、こういうことだったのか!という目から鱗体験が何度も出来る貴重な本でした。発達障害の子ども達の保護者の方、幼稚園や保育園の先生方にお勧め致します。

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