本の紹介

八島太郎著『からすたろう』を読んで

この絵本の主人公は、みんなに「ちび」と呼ばれていました。それは、身体がとても小さかったから。ちびは、小学校に入学した日にいなくなって、床下に隠れていたり、先生を怖がって何一つ覚えなかったり。授業中も休み時間も誰にも相手にされない子どもでした。私は、このちびは、発達障害児だったと思います。友達を作ろうともせず、学習にも支障があり、でも類い希なる才能を持っているのでした。

それに気づいて認めてくれたのが、六年生の担任になった磯辺先生でした。先生は、ちびが描いた絵や習字を教室の壁に貼りました。その習字というのがこれです。

学習障害の子が書く字に似ていると思いませんか?

そして六年生の学芸会で、ちびは舞台に登場し、「からすの鳴き声」を発表するのです。かえったばかりの赤ちゃんガラスの声やお母さんガラス、お父さんガラスの声、等々。そう、視覚認知に問題がある子どもは、逆に、聴覚認知能力が秀でたりするのです。磯辺先生は、彼が書く習字を訂正させることはせずに、誰にも真似できないような「からすの鳴き声」をみんなに聞かせたのです。

この磯辺先生には、二人のモデルがいたようです。本の後書きに、「この絵本を磯長武雄、上田三芳の恩師にささげる」とあり、「磯辺先生は、この恩師二人の想い出をあわせてつくったものである。」と説明されています。

八島太郎さんは、1908年生まれですから、この絵本の中の出来事は、第二次世界大戦前のことだと思われます。そんな昔からでさえ、通常学級における特別支援教育は、こうした素敵な先生方の手によって行われてきたのだと思います。心温まる絵本です。

関連記事